0.
「さて、まずは安行寺へ向かおうか」
車を走らせながら、ユウは言う。東京へ向かう前に、やっておかなければならないことがあった。それはもちろん、上原の意識と入れ替わったこの、コウリの目的を果たすための必要な寄り道だ。
『……柳行李の出自を辿ったところで、本当に俺の目的は果たされるんだろうな』
腕を組みコウリはユウの横顔を見やる。ユウはぎこちなく口角を上げ、不自然な笑みを作っていた。
「え〜と? たぶん、ね。あんたを行李に封じたのは、例の山賊の家系に生まれた僧だったっていう話だからね。他にも住職さんが色々知っているみたいだったから、それに望みをかけようかな、と」
言いながら、何かをごまかすかのように右手で頭をかく。
『なんだ、それは。昨日の自信はどこへ行った』
「だって、相当昔の話だからさ〜。あんたが封じられてた柳行李から解かれたのだって、もう百年以上も前のことでしょ〜? あの説話集は情報量少なすぎだけど、他の書物にだってあれに毛が生えた程度の情報しかないんだからさあ。……安行寺に何かもっと残っていればいいけど」
『磐城の総代が詳しく知ってるんじゃないか』
俺が助言を挟めば、ユウはバックミラー越しに視線を寄越した。その眉間にシワが寄っているのを見ると、あまり良い助言ではなかったらしい。
「あのヒトは苦手だね。人をこき使う割りには出し惜しみするじゃない。っていうか、どこの総代もあんなんじゃないよねえ?」
『それは何とも言えんな』
言えば、ユウは大きくため息をついたが、しばしの後にニヤリと不敵に微笑んだ。
「ま、とりあえず気長に探しましょ。あんたの報復の相手、をね。時間はたっぷりあるんだし」
ユウはチラとコウリに視線を投げる。
これから殺す相手を探そうというのに、全く緊張感がない。
自分が余命半年を言い渡されたときでも、まるで興味がないとでもいうような態度を見せた、あの時のことを思い出した。
あれからもう、二年も経つ。その間も、そしてこれからも、ユウは妖の領域に引き寄せられていく。それが良い事なのか悪い事なのかは、判断つきかねた。何故なら、ユウが妖との縁を断ち切るときは、それはすなわち、俺とユウとの別れを意味するからだ。
皮肉な話だが、俺はそれを望んでいない。
だがいつか、別れが来るのだろう。
せめてそのときまでは、片時も離れることもなく、共に……。
完
---------------------------------------------
○あとがきという名の言い訳○
最後まで読んで下さった方、本当に有難うございました。
完結するまでにあまりに時間がかかりすぎて、ちゃんとお話がまとまっているのか自信がありません。伏線が解決してないところがあります。例えば里緒のおばあちゃんの件とか。更に言えば、お話的には完全に終わることなく、このお話は終わり。というか、コウリの件を解決させるとなると終わりが見えなくなるので(汗)、次作につなげるということで許してください。といいながら、その次作もいつ書けるんだと言われると……。
ええと、長くなりましたが、こんな亀足の小説書きですが、これからも気長に見守って頂けたら、と思っております。
それでは次の作品で(←自分への励まし)!