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ぶはっ、という声が聞こえたのは、そのすぐ後である。 何かを堪えきれずに、吹き出してしまったと言う感じ。 「〜〜はっ、もう駄目だ、我慢できない。……はあ、美紀ちゃんって本当に面白いね。いや、 ごめんね。堪えきれなくて」 そういった後も、三月先輩は苦しそうに腹を押さえながら、一頻り笑っていた。 美紀はというとその間、やや茫然と三月先輩を見守っていた。 いつも穏やかに笑みを浮かべるくらいの余裕を保っていた先輩が、今は爆笑している。 しかもどうやら、原因は自分にあるらしい。 どうしていいものやら、美紀にはさっぱり分からなかった。 「あ、あの〜〜」 やがて三月先輩の笑いが収まったころ、美紀は恐る恐る声をかける。 先輩は息を整えながら、軽く涙を拭っていた。 「いや、ほんとごめん。怒った?」 「いえ〜、え……っと? でも何だかウケたようで嬉しいです」 照れ笑いをして、そう言った。自分でも何かがずれているような気もしたが。 そんな言葉に先輩は更に笑った。 「そんなに面白かったですかあ?」 「……うん、それはもう。だって、美紀ちゃん裏返ってたし。何でそんな反応するかな。 呼びかけただけなのに」 「そ、それはだって……」 先輩のことが、好きだから。 その言葉を飲み込む。 飲み込んでしまうと、他の言葉も出てこなくなってしまった。 再び沈黙が二人の間を流れる。美紀はそんな状態に耐えきれず、何気に噴水を見上げた。 「美紀ちゃん、あっちの方にベンチがあるから、座ろうか」 三月先輩がそう言った時。 先輩の手が、美紀の手を取った。 そうして、歩き出す。 「○×▲□☆◎▲……!」 この時の美紀は、もはや天まで昇ったといっても過言ではなかろう。 「じゃあ、先輩、今日はこれで」 美紀の家から十メートルほど手前、美紀は三月先輩にぺこりと一礼してにっこりと笑った。 あれから美紀は極度の緊張と、昇天による弛緩でもう何が何やら分からなくなり、 結局その様子を三月先輩に心配されて帰ることになった。 家の前まで送ってもらって、美紀は三月先輩に別れを告げる。 「ああ、お休み」 三月先輩もそう笑って、踵を返した。 美紀はその背中を見送る。 と、「ああそうだ」と言って三月先輩が美紀を振りかえった。 「今日は楽しかった。また一緒に、どこか行こうね」 「え……あ、はい! あの、でもその……」 「うん?」 美紀が躊躇っている様子を見て、三月先輩は再び美紀の傍に歩み寄ってきた。 美紀は意を決したように、言う。 「先輩は、私のことどう思っているんですか? その、私……」 「美紀ちゃん」 「はいっ」 今度は裏返らなかった。 ほっとしていたら、先輩の手が目の前に伸びてきて、思わずびくっと体を硬直させる。 ぽんと、頭の上に手のひらが置かれた。 「せ、先輩……?」 「美紀ちゃんが聞きたいことは何となく分かる。…分かっているから、悪いけど、 もう少し待ってくれるかな?その時が来たら、俺のほうからちゃんと言うから」 「……」 今、何て言われたのだろうか。頭の中が整理されない。 何て言って、それはどういう……? 「……月曜日、一緒に帰ろうか。何か予定ある?」 「な、ないです」 「そう、良かった。それじゃあ、お休み」 キス、された。 ……額に。 …… ………… ……………… その後美紀は、一時間ほど茫然とそこに立っていたという…… |