4.

 二人はその日、駅前の大型百貨店に買い物に来ていた。
 夏休みが始まった次の日、早速買出しである。
「結局、期末も散々だったね、あんた」
「……そりゃ頭のいい久美子はいいよ。どうせ私は頭悪いし」
「いや、あんたの場合圧倒的に要領が悪い。そして集中出来てない。計画性がない、の三つの要因が挙げられるね。ま、もういいけど。さて、まずは……」
「あ、私サンダル欲しいな〜」
 久美子がまずどこのフロアへ行くか考え出したとたん、美紀が通りかかった靴売り場の方へふらふらと歩き出す。のを、久美子に止められた。
「何いってんの、そんなの後々! 大事なものから買っていかないと、後でお金がないじゃ、すまされないんだからね!」
 美紀は久美子の迫力に押され気味になりながらも、むくれた顔で言い返す。
「じゃあ、何が大事なの〜?」
「あんた、海に行くって言ったら水着に決まってんでしょ! み・ず・ぎ! そして次は勝負下着」
「え、しょう……下着?? 何で? 別に古くなってないよ。第一誰が見るって言うの」
「……あんた、世にも珍しいボケボケ高校生だよね。情報源は何もないの? 雑誌でも見て勉強しな」
「ひどい! 雑誌なら買ってるよ! JUNONとか…」
「そういうのじゃなくて!……もういいや、とにかく、私に着いて来なさい」
 久美子は美紀の腕を掴むとエスカレーターの方へ連れていく。 季節的にも、水着売り場が大きく設置され、大勢の女の子たちがそこに群がっていた。
「うわ〜、一杯あるね〜。どれにしよう……あ、これ可愛い」
「ばっかじゃないのあんた。ワンピースなんて色気のないもの選んでどうすんの。セパレート・タイプに決まってんでしょ」
「ええ! やだ、腹なんて人に見せられたもんじゃないんだから」
 力いっぱい抗議するが、久美子はある水着を取ると美紀に差し出した。
「ほら、こういうのにすればいいじゃん」
「これは?」
 それは花柄の可愛い水着だったが、一見キャミソールとミニスカートを合わせたようなもの だった。
「4つに分かれてんのよ。あんたの場合、あまり張り切ってる感じの水着だと、貧弱な胸が可哀想だし、まあ、その時の心意気に合わせて着られるでしょ」
 上のキャミソールとスカートをめくると、下にはこれまた可愛いデザインのビキニが出てくる。肩紐や腰紐など止める部分は全て紐仕様で、確かに可愛い。それに恥ずかしかったら上を着れば良いのだから。
「へえ〜じゃ、こう言うのにしようかなあ」
「気に入ったのなら自分で好きな柄を選びな。そうそう、絶対試着しなよ。サイズが合わなかったら最悪だから」
「は〜〜い、あ、そういえばさっきの、貧弱な胸ってどういうこと!」
「……あんた、反応遅過ぎ。水着、分厚いパットが入ってるやつにしなよ」
 久美子は疲れたようなため息をついて、奥に消えていった。



「ここここれ、凄い……」
「ふ〜ん、あんたそういうのがいいんだ」
 久美子に横目で見られ赤面した美紀は、慌ててそれを棚に戻した。
 水着を買い終え、下着売り場に来た二人である。
 ちなみに美紀が手に取った下着は、真っ赤なティーバック下着で、前の方も布が少なく、レースがびらびらのものだった。
「じゃあ、どういうのを勝負下着っていうの〜?」
「人には合う合わないがあるでしょ。そういうのは美人で大人の人がはいて丁度いいの。 どうせあんたは夢見がちなとぼけ少女なんだから、清純派狙った方がいいんじゃない?……これとか」
 久美子はふざけてイチゴ柄パンツを示せば、美紀は自信ありげに言った。
「これなら持ってるもん!」
「……まじで? どういう趣味してんの」
「か、可愛いじゃん!」
 久美子に馬鹿にされたと分かって、美紀は赤面しながら言い返した。
「ところであんた、何カップ? 見た感じ65のAって感じだけど」
「……うう、70のAだよ」
「え? あんたアンダーが70あるようには見えないけど。意外に太いんだね」
「うわ、久美子酷い〜! だって、締め付ける感じが嫌なんだもん!」
 いじけた表情の美紀を、久美子はまあまあと慰める。
「とりあえずまだ高校一年なんだから、総レース使いとかそう言うのじゃなくてもいいと思うけど。 でも、男を押し倒すなら……」
 久美子は言いかけて、はた、と思いついた。
(待てよ、美紀に男を押し倒すなんて出来るわけないか。……いやいや、そこは何とか)
「どうしたの? 久美子」
「あ、ううん、何でもない」
「でもさ〜、ふと思ったんだけど、下着って服の下に隠れて見えないじゃん。なんでそんなにこだわるの」
「それは、あんた……」
 説明しようとして、久美子は言葉に詰まる。
(まさか美紀ってば、子供はコウノトリが運んでくるなんて思ってないよね。さすがに、男女がやる べきことは知ってるでしょ)
「……つまり、先輩も男だってことだよ」
「え〜? 当然じゃん、女には見えないよ」
「じゃなくて……しかも高3ともなれば男なら誰だって」
 言いかけて、久美子は言葉を切った。そして、ニヤリと笑うと続ける。
「男だって、女の着替えを覗きたいとか、思うでしょ。もし見られた時何の色気もない綿の パンツだったら、先輩も幻滅しようってもんさ」
「え〜? 先輩が覗き?……でも、先輩にだったら見られても……きゃ!」
「……」
 久美子は一瞬呆れたような顔で美紀を見たが、ともかく美紀はそれで納得したようだった。  

 

home/index/back/next