5.

「あ〜、沢山買っちゃった〜! 貯めてたお年玉、使い果たしちゃったよ〜」
 二人は一通り買い物を済ませると、百貨店から出て帰路についた。商店街を抜けて、バス停のある駅前まで歩く。
「あんたは買いすぎなんだよ。っていうか衝動買いしすぎ」
 久美子は美紀の荷物を半分担当して、ため息をついた。
「それよりあんた、ダイエットの方は進んでんの?」
「う……まだ1kgも減ってない」
「だろーね。ま、そんな簡単には痩せられないし、せいぜい覚悟を決めるんだね」
「そんなのいや〜!……何か最近うれしさのあまりご飯が美味しく感じられて……ああ、も〜〜」
「あんた運動しないんだもん、痩せないよ」
 嵩張った荷物を持ち直しながら、久美子は笑った。
 美紀は恨めしそうに久美子を見る。
 さすが陸上部だけあって引き締まった体をしていた。スカートから生えた二本の足は、 ちょっとふくらはぎがししゃもになっているものの、細い方だろう。
ウエストもキュッと引き締まって何より、久美子は胸がある。先ほど買っていた下着を見たら、70のCだった。
「だって、一人でジョギングしたりウォーキングしたりするのって、恥ずかしいじゃん……何か面倒臭いし……」
「それじゃ、諦めな」
 久美子に見放されたように言われて、美紀はうなだれた。が、次の瞬間にはパッと顔を上げて、 拳を握りしめる。
「……ようし、私運動する! 早速ここから家まで歩いて帰る!」
「はあ? あんたんちまでこっからどのくらいあると思ってんの。バスでも15分以上かかるんだよ?」
「だからこそ、歩くんだよ!」
「……まあ、勝手にしなよ。私は電車だから」
「ええ〜〜〜? 久美子も途中まで一緒に歩こうよ〜。ダイエットになるよ〜」
「私はそんなことしなくても、普段から気をつけてるから。今持ってるあんたの荷物は今度遊びに行ったときに届けてやるから、 まあ一人で頑張って歩きな」
 久美子にそう言われ、美紀はがっくりと肩を落とした。
 でも、いい。やるといったからには、頑張るぞ、と心で呟いた。

 一時間後……
「あ〜まだつかない〜。足が痛いよ〜疲れたよ〜」
 道端で一人しゃがみこんで、美紀は弱音を吐いた。
 やっぱりバスで帰ってくれば良かった。
「今からバスに乗ろうかな」
 美紀はため息をついて立ちあがった。水着やサンダルの入った紙袋を持ちなおして、一歩踏み出す。
 そこを、一台の自転車が通り過ぎて、そして少し先で急に止まった。  
 あの後ろ姿はまさか……  
 彼が、振りかえる。やっぱり、それは三月先輩だった。  
 美紀は口元に手をあてて、呟く。
「……先輩?」
「えっと、星野の妹……美紀ちゃんだっけ」
「は、はい! そうです! 美紀です」
 美紀が硬直して返事すると、三月先輩は自転車から降りて、美紀の近くまで来た。
「買い物の帰り?」
「は、はい」
「それは、Mデパートの袋か。ここまで歩いてきたの」
「はい、ダイエットにと思って」
 あまりの緊張で、美紀は頭に霞みがかったかのように、ぼんやりとしてくる。
「それじゃあ、悪いかな。……自転車で家まで送ってあげようかとも思ったけど」
「はい……ええ?! いいんですか!?」
「ああ、もう直に日も暮れるし、女の子一人じゃ危ないだろ?……まあ、二人乗りが危なくないとも言えないけどね」
「あ、あの、ぜひお願いします」
 美紀は自分の大胆さに驚きながらも、三月先輩の好意に甘えることにした。
「じゃあ、荷台で悪いけど」
 三月先輩はそういって、自分の肩に下げたスポーツバッグからタオルを出す。
「これを敷いたら痛くないんじゃないかな」
「あ、有難うございます」  
 美紀は天にも上る気分で、先輩の跨った自転車に横向きに腰掛ける。
「じゃあ、行くよ。落ちないよう、気をつけてね。不安だったら俺に掴まっても良いから」
 さすがにそんなことまでしたら、嬉し過ぎて失神しそうだったのでそれは遠慮した。
 やがて、ゆっくりと自転車は動き出した。
 三月先輩は気を使って、なるべく段差のないところを走ってくれている。
(ああ、先輩……私、幸せです〜)
 美紀はまさに、昇天しそうな勢いだった。  

 

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