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「何あんた、さっきからキョドってんの?」 久美子の呆れたような問いかけに、美紀は慌てて何でもないというふうに、頭を振った。 美紀は更衣室に入ってから、周りをキョロキョロと見まわして、何かを伺うようであった。 買出しの日、久美子に言われたことを気にしていたのだろう。 つまり、三月先輩が覗きをするということ。 けれどもここは完全密室型の更衣室なので、覗きようもない。久美子は美紀の単純な思考を解して、 失笑した。 「あんた、ホントに天然だよね〜」 「ち、違うもん! ……何となく、その……」 「ふうん、あんた、覗かれたいっていう願望あるんだ。ううん、立派な変態だね」 「ひ、ひどいよ、久美子〜」 美紀が一人で勝手にジタバタしている間に、久美子はさっさと服を着替える。 スカートを履いたまま水着の下を着用し、その後スカートを脱いだ。 「く、久美子、ハイレグ……」 「あ? ああ、足長効果?」 久美子はニヤリと笑ってそう言った。 「そんな〜、そんなの卑怯だよー! 私が引きたて役じゃん!」 「じゃ、あんたもビキニにすれば〜? もう決めてんの?」 「ン……今日は恥ずかしいから上を着る」 「ふーん、ま、いいんじゃない?」 久美子はそうして、さっさと水着を着用した。 途中、久美子の胸を生で見てしまい、思わずドギマギする。美紀はまだ、水着を抱えたまま戸惑っていた。 「何やってんの、早くしなよ」 「だ、だって、恥ずかしいじゃん。……ちょっと久美子、絶対こっちを見ないでよ!」 「あんたは私の胸をしっかり見てたじゃないの」 久美子は顔をしかめて言ったが、それでも後ろを向いてくれた。 美紀は遅れ馳せながら、下着を脱いで水着をはき始める。 「で、結局どのくらい痩せたの?」 「……二キロ」 「ふうん。昼ご飯をカロリーメイト二本だけにした甲斐はあったってことか」 「でも〜、あまり見た目変わらなかった」 美紀が泣き言を言ったら、久美子は人事のように笑った。…実際、人事なのだが。 二人が着替え終わって出てくると、将行と三月先輩は何やら笑いながら話しこんでいた。 海の家の屋根下、一つのテーブルに腰掛けている。テーブルの上には膨らまし終わった浮き輪などが置いてあった。 「お待たせしました〜」 二人の登場に、将行と三月先輩は同時に振りかえる。 美紀と久美子の格好は対象的だった。 ちなみに久美子の水着は、マリンブルーのレトロな花柄模様で、セパレートタイプ、そして ハイレグである。 変わって美紀の水着は、積極的な女の子だったらそのまま街を歩けるようなものであった。 「うわ、お前色気ねえ〜。もっと気合入れてこいよなー。その点、久美ちゃんはさすが、 すっごく似合ってるね」 将行に比較されて、美紀はうう、とうなだれた。 そりゃ久美子みたいなナイスバディだったら、気合の入れようもあるが。 「そうかな、美紀ちゃんに合ってて、可愛いと思うけど」 「……先輩がそう言ってくれるなら!」 美紀は一瞬にして顔を輝かせ、ニコニコと微笑んだ。相変わらず、ころころと表情を変える奴だ、 と世話役二人は思う。 「じゃ、早速海につかろうぜ」 浮き輪を持ってそう提案した将行を、美紀はじと目で見て冷ややかに言う。 ささやかな反抗だ。 「お兄ちゃん、そんな温泉に来た親父みたいに言わないでよ」 「ああ? お前のことを考えて言ってやってるんだぞ。お前は泳げないからな、つかる、 が正しい! よってお前がおばさんだ!」 「お、おばさん!? この十六歳にもなってないピチピチ女子高生を捕まえてよくもそんなことを!」 「ぐは、ピチピチだって? お前言葉も古いな」 それはある意味図星だったので、言い返す言葉を失った美紀は口をパクパクさせている。 その様子をまた将行は馬鹿にしたが、三月先輩と久美子になだめられ、四人はようやく海水に触れることが出来た。 |