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その日の夕飯は、バーベキューだった。 海の近くのキャンプ用地を借りて、近くの魚屋で買ってきた魚介類を焼くのだ。 その日は多少風があったので、焼く際の煙が彼らを襲い、要領の悪い美紀は頻繁にむせっていた。 「あんた風向きが変わるたびに、器用に風下に移動してるよね」 久美子が揶揄して笑えば、美紀は言い返そうとして口を開き、またもろに煙を受けてむせりこむ。 「あーあ、あいつは本当にアホだな〜」 将行は海老の殻を剥きながら、ため息をついた。 全く、どう育てたらあのような天然茫然少女になるのだろう。 「美紀ちゃん、こっちへおいでよ。ここなら風も来ないし、焼けたのを渡してあげるから」 三月先輩の優しいリード(?)で、美紀はようやく落ち着いて食べることが出来た。 その後、大体の材料を焼き終えると、炭の火を消して皆椅子に座り込む。 将行はどこからか持ってきたビールを飲んでいた。 「さって、いよいよ今日のトリ、花火大会と行きますか〜」 食べ終わった紙皿やゴミを片付け終わったところで、将行がそう言って立ちあがった。 傍らから大きな花火セットを取り出すと、ニンマリと笑う。 「あ〜! お兄ちゃんロケット花火をまたそんなに買ってる! 絶対に人に向けないでよ〜!」 「大丈夫だ、よけられる程度には手加減する。……まあお前は必死にただ逃げろ」 「い、嫌だよ! もう〜〜」 そうやって始まった花火大会も、大はしゃぎで幕を閉じた。 もちろん、主にはしゃいでいたのは将行だが。 美紀はげっそりとして、久美子と共に宿泊所に戻った。 男達はバーベキューと花火の後片付けをするため、まだ海岸の近くに残っている。 「はあ〜〜、疲れた〜」 久美子は部屋に戻るとすぐ、畳の上に突っ伏して大きく息をつく。 「あんたの七転八倒する姿は滑稽というより何だか、哀れだったもんね」 久美子は500mlペットボトルのウーロン茶を空けると、それを一口飲む。 そして荷物からバスタオルを取り出すと、入浴するための準備を始めた。 「私は風呂に行くけどあんたどうする?」 「う〜〜ん、あと十分ほどしてから行く……」 「分かった、じゃあ、鍵は脱衣所の私の荷物の中に入れといてよ」 「ふあ〜〜い」 久美子はそうして、部屋を出ていった。 「あー、もう、やっぱりお兄ちゃんはろくなやつじゃない〜〜」 美紀は一人悪態をついた。 十分後風呂へ向かう途中、将行と三月先輩が帰ってきたところに出くわした。 二人は笑いながらロビーへやってくる。 「ナンだよ、今から風呂か? 久美ちゃんは?」 「ん、先に行ってる」 「お前トロトロすんなよ〜。ただでさえ風呂が長いんだから。洗い過ぎで胸がえぐれるぞ!」 「……お兄ちゃん、セクハラ!!」 美紀は三月先輩の手前赤面して怒ると、早足で大浴場へ向かった。 将行は面白そうにそれを見送って、三月の方を振りかえる。 「お前、ホントにあんなのでいいのかあ? あんな、ボケボケ娘」 「そうか? それが可愛いんじゃないか」 笑みを浮かべながら言った三月を、将行は物珍しげに見返した。 美紀が浴場の中へ入ると、久美子はすでに湯船の中につかっていた。 美紀が入ってきたのを見つけ、手を振る。 「わあ、こっち見ないでよ!」 タオルで胸から股下まで隠していた美紀だったが、正面から見られると、恥ずかしがってそう言った。 「……あんた、中学の修学旅行はどうしてたのよ。今時、ホント珍しい人種だね、あんた」 美紀は桶を持って、目立たないよう端の方へ移動すると、シャワーの前に座り込んでお湯を出した。 頭からザ〜っとかけていく。 久美子はその様子を見ていた。 最初は一緒に出ようかとも思ったが、美紀があまりにもチンタラとしているので、のぼせてしまいそうになる。 十分経っても湯船につかってこない美紀を見て、久美子はいい加減浴槽から上がった。 「先部屋に帰ってるからね〜」 洗顔していた美紀にそういって、久美子は上がった。 「ふぁ〜〜」 という返答が美紀から返ってきた。 美紀が部屋に戻ると、久美子はすっかり髪を乾かし終わって、テレビを見ていた。 さらに、二人分の布団もすでに敷き終わっている。 「ようやく出てきたか。あんた長風呂だね」 「長くしたくなくても、長くなっちゃうんだよ〜」 この辺りの自分のトロさは自覚しているらしい。 「さて、じゃ、隣に行くよ」 久美子はテレビを消して立ち上がった。 「へ? ナンで?」 「あの二人、酒を買ってきたみたいだよ。四人で飲もうって、さっき兄ちゃんが」 「え、ええ〜、私お酒なんて飲めないよ〜」 「ん〜? ジュースもあるんじゃない?」 久美子は適当に返答し、美紀を促した。 「あ、着替えなきゃ……」 「そのままでいいよ。あとは寝るだけなんだし」 美紀の格好はパジャマで、久美子はハーフパンにTシャツ姿である。 「え〜? でも〜」 「ほらほら、あんたが遅いから三月先輩は待ちくたびれてるよ。さっさと行く!」 「え、先輩が、私を待って……?」 うっとりしかけた美紀を引きずるようにして、久美子は隣の部屋を訪れた。 |