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カチャカチャと、ビニール袋の中でビン同士がぶつかり合って音を立てていた。 ツードッグスやジーマなどのアルコール飲料やソーダなどが入っている。もう一つの袋にはつまみのお菓子。 隣の三月が持っている袋には、ビールやチューハイなどの缶が入っていた。 「いやあ、ちょっと買いすぎたか」 袋を持ち直しながら、将行は言う。中身が重いため、持ち手が手に食い込んで痛い。 「……まあ、いいんじゃない? 余ったら明日飲めばいいだろ」 三月はそう言って、やはり袋を持ち直した。 道路は雪と、そして雪が解けて再び凍った氷によって、かなり注意しなければ転びそうだ。あたりには民宿やホテルの外灯がついているものの、足元は薄暗い。 鈍臭い妹でなくとも、気を抜けばすぐにでも転びそうである。 「さみいな」 「……まあ、山だし」 あたりまえのことを言ったら、苦笑された。 「そ〜いやさ、お前ら結局どこ泊まることになったわけ? エロ温泉」 「エロってなんだよ。つーかいいのかよ、エロで。……この近くの旅館とった。この辺からバスも出てるし、送迎もしてくれるらしい」 「へえ。……いいよなあ、楽しそうでよ。まあでも、相手が美紀じゃいまいち盛り上がりに欠けるか。てか、どうなの。今んとこ」 「あ〜、いや、それなりに楽しんでるよ。こっちも出方伺ってるところはあるけど。彼女、どこまで本気でとぼけてるのか分からないし。まあ、それが魅力だけどねー」 ノロケなのか何なのか、とりあえず楽しそうにそう話す三月に、将行は珍しいものでも見るかのような視線を送ってやった。 「進展はぁ〜?」 「それはあんまり。でも温泉へ行く時点でかなり進展だと思うけどな。行ってみなけりゃ分からないけど。別に俺は焦ってないし」 「はぁ〜? 余裕だねえ。ま、三月君は恋愛慣れしてらっしゃるから。即セックスな女には飽き飽きだろ? 今更ガツガツしねえよな」 言えば、缶の詰まった袋が、ボスンと足のあたりにぶつかってきた。 三月の方を見れば、正面を向いたまま、すました顔をしている。 「痛えよ」 「そんなことよく言えるな、星野君は。本当は最愛の妹が奪われて、嫉妬心が吹き荒れてんじゃないの?」 「気持ちわりいこと言うな、アホ。俺はだなあ、あんなタヌキ顔のボケ妹よりもだなあ、美人系の久美ちゃんやぁ、癒し系の菜緒ちゃんの方があ、……好みなのさ〜」 語尾を何となく、「ちびまるこちゃん」の花輪君に似せてみた。三月は呆れたような表情を見せる。 「で、誰が本命なの」 いきなり振られて、将行は思わず足を止めてしまった。 意図せず、そんな話題を提供してしまったらしい。 「……は?」 「お前、彼女作らないの」 再び歩き出した将行は、三月の問いに首を傾げながら、苦笑した。 「いやあ、今んとこはねえ、しがない浪人生ですし〜?」 浪人生であることを別にしても、今のところ彼女を作りたい、とは思わなかった。彼女を作らなくても日々は十分楽しいし、特別好きな女の子もいない。もちろん、いい子だな、と思う女の子は多いのだが、それ以上先に進めようという気がしないのだ。 前の彼女とは、一年以上前に別れた。一年の後半から付き合い始めて、二年の半ばまで。 「ま〜、出来る時は自然に出来るさ〜。風任せ、風任せ」 ようやく民宿に着いて、二人はその話題を打ち切った。 男同士で、少なくとも三月とはあんまり、恋愛話をしたくない。なんだか自分の手の内を見せるようで嫌なのだ。 まあ、くだらない下ネタ話は大歓迎だが、やっぱり三月とはそういう話はしにくい。 廊下を進んで部屋に向かえば、途中トイレから、久美子が姿を見せた。 「あ、お帰りなさい。ご苦労さまです」 久美子は手を拭いたハンカチをスウェットのポケットに詰め込むと、二人が手に持った袋に目をやる。 袋は相当かさ張っている。 「なんか、買いすぎじゃありません?」 「いやあ、8人いるからさあ。思わずね」 「まあ、いいですけど。けっこうかかったんじゃないですか?」 久美子は二人と共に歩き出しながら、将行が持っていたつまみの袋を負担した。 「お、悪いね。……ま、それほどでもないよ。それに男共でワリカンにすっから。おごりおごり」 「それはそれは、有難うございま〜す」 それを聞くと久美子は笑って率先して歩き、部屋の扉を開けて二人を促した。 将行は部屋に足を踏み入れる。すでに女の子たちも集まっているようだ。 久美子は、部屋の奥に進み美紀の隣に腰掛けた。 将行と三月は安部の隣に腰掛ける。 「さって、お待たせしました。んじゃ早速酒回して、乾杯しようぜ。んで、その後はトランプ大会ということでよろしく〜」 将行はそう言って、皆の輪の中心に置いた袋の中の酒を取り出した。 |